落ち込みたい時にオススメ!岩井志麻子「ぼっけえ、きょうてえ」

岩井志麻子 ぼっけえ、きょうてえ「ぼっけえ、きょうてえ」とは、岡山地方の方言で「とても、怖い」という意味。

――きょうてえ夢を見る?
……夢ゆうて、何じゃったかのぅ。ああ、寝ようる時に見る、あれ。あれか。
なんと旦那さん、子供みてぇじゃな。いやいや、笑いやしません。夢いうもんは、きょうてえものと決まっとりましょう。
妾(わたし)?妾は……起きとる時に見るものだけで、充分きょうてえ思いをしてきましたけん、寝たら何も見ん。
妾の夢は真っ黒け。ただ暗いだけですわ。自分すら出て来ん。

という、岡山弁のエッジの効いたセリフから始まる岩井志麻子の「ぼっけえ、きょうてえ」。
ホラー短編小説で4篇の作品が収録されています。
すべての話は、明治時代の岡山県が舞台になっています。

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ぼっけえ、きょうてえ 小説のあらすじ

ぼっけえ、きょうてえ

ある女郎が客の男に淡々と語る、自分の忌まわしい半生。
女は、山奥の貧しい村で村八分になった両親のもとに生まれ、間引きで殺されかけたり、理不尽な暴力に晒されながらも生きのびてきた。
極貧の中、堕胎を仕事にする母親の仕事を手伝って生きていたが、父親が死に、岡山の遊郭に売られてくる。

自分の出生の秘密。両親が村八分になった理由。謎めいた双子の姉。
女郎は男に問われるままに語っていく。

あるきっかけで、男は女郎の恐ろしい秘密を知ってしまう。
おびえる男に女郎は笑いながらこう言ってすべてを告白する。

「これは夢じゃ。覚めたら忘れてくれると思うて、妾は全部喋りょうるんじゃ。
忘れられんかったら……?
旦那さん、あんたは今度こそほんまに戻って来られんようになるよ」

密告函

コレラが蔓延する村の役場に、コレラ患者の存在を密告する「密告函」が置かれることになった。
村役場の若手で一番の下っ端の片山弘三は、この密告が本当かどうか確かめる仕事を押し付けられる。

密告の中には、流れ者の祈祷師の娘、お咲の名前があった。
怪しく美しいお咲を一目見ただけで、弘三はお咲に夢中になってしまう。

偵察に回る家で次々と目撃する異様な光景。
村人から恨まれる仕事を押し付けられたストレスで弘三はおかしくなっていく。

弘三は家の金をお咲につぎ込み、懸命に支えてくれる嫁に暴力をふるうようになる。
ようやくコレラの流行に終焉が近づいて村に平穏が戻ろうとしたとき、弘三は嫁の恐ろしい本性を見てしまう。

あまぞわい

酒場で酌婦をするユミは、田舎者で不器用な漁師の錦蔵に見初められ、寂れた漁村に嫁入りする。

二人を繋いだのは「あまぞわい」という、海女と尼が悲惨な目に遭うおとぎ話だった。

しかし、借金までして身請けしたユミは漁師の嫁としては役に立たず、村人たちからは爪弾きにされ、錦蔵にも暴力を振るわれるようになる。

あるとき、ユミは網元の裕福な息子、恵二郎と出会う。
恵二郎は生まれつき足に障害があり、そのために教師をしていたが、ユミは知的で優しい恵二郎に惹かれる。

いつしか二人は道ならぬ恋に落ちてしまうが、ユミ、錦蔵、恵二郎には破滅が待っていた。

依って件(くだん)の如し

幼いシズと年の離れた兄の利吉は、母親が呪われた土地『ツキノワ』で自殺したせいで、村八分に近い扱いを受けていた。

ある日、利吉は「『ツキノワ』の件(くだん)が戦争に勝つと教えてくれた」と言って、日清戦争に出征して行った。
シズは、村人の家で重労働をさせられ、夜は牛と一緒に牛小屋で寝かされる生活をした。

利吉が出征してから1年ほど経ったある夜、シズが世話になっている村人の家族が惨殺される。
シズは全てを目撃していた。犯人は軍服を来た兄の利吉だった。

それからさらに1年後、兄は何もなかったかのようにシズの元に帰ってきた。
利吉が「戦勝の殊勲者」になったおかげで、二人は村に溶け込むことができるようになった。

楽しい生活ができるようになったシズだが、秋祭りの地獄めぐりの見世物を見て、自分の家族の忌まわしい秘密を知ってしまう。

ぼっけえ、きょうてえの感想

全編読んだ私の感想は「怖い」というよりも「嫌」。
あらすじをまとめるだけでも、気が滅入ることこの上なし!
本編はこれに輪をかけてもっと嫌な話です。

現代人が忌み嫌う田舎の閉鎖的な雰囲気、しがらみ、村八分の陰湿でリアルな描写、脱力してしまうような近親相姦と不倫の行方が粘つくような筆致で描かれます。

人の描写とは対照的に、風景や季節の情景は切ないぐらいに美しく描写されます。
これが余計に物語の陰惨さを引き立てる憎い演出になっています。
岩井志麻子の筆力はすごい!

凄みのある嫌なホラーを読みたい方、汗が吹き出す蒸し暑い夏にクーラーなしでどうぞ。


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