中山市朗 怨念怪談「なまなりさん」その呪いは本物か?

なまなりさん 中山市朗著新耳袋の著者中山市朗が放つ、呪い・因縁にまつわる実話をまとめた「なまなりさん」。
「なまなりさん」に関わってしまった男性から、二日間にわたって聞き取りをした長編怪談。
呪いや祟りは本当に存在するのでしょうか?

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「なまなりさん」とは?

怨霊。生霊。般若になる前の状態を表す怨霊の面。
生成と書いて“なまなり”と読む。あるいは、“なりかかり”ともいう。
“生霊”と書いて“なまなり”と読むこともある。

なまなりさん あらすじ

プロローグ

著者(中山市朗)は、ある人の紹介で伊東礼二という男性と出会う。
伊東は企画・プロデューサーという肩書だったが、アメリカ人のハーフで元海兵隊員、そして琉球金剛流の退魔師というユニークなバックグラウンドを持っていた。

それから1ヵ月後、著者は伊東からホラー映画の監修を依頼される。
映画のタイトルは「なまなりさん」。怨霊に関わる本当にあった出来事を忠実に映像化する予定だった。

伊東の映画製作会社の設立パーティーは、業界関係者や芸能人が参加する豪勢なものだった。
入籍したばかりの美しい妻。ハリウッドとの業務提携も予定していて順風満帆。
ところがこの後、好調だった伊東の運気が妙な方向へと転がりだす。

社員の事故死と部下による横領、それに伴うプロジェクトの凍結。
あっという間に会社は閉鎖になり、妻とは離婚。
伊東は沖縄で土砂崩れに巻き込まれ、左足を負傷し、なにもかも失った。

半年後に著者の前に姿を現した伊東は、こう言った。
「あれは触れてはいけないものだ。だから、あなたも知らないほうがいい」
しかし、著者は「なまなりさん」の取材を申し込む。

妖艶な双子の美女、鈴江と香奈江

話の発端は、伊東とコンビを組んでいたカメラマンの健二が紗代子という女性と婚約したところから始まる。
腕が良くてモテる健二とかわいくて癒し系の紗代子、二人は伊東を始め周囲から祝福されていた。

ある日、みんなで行きつけの店で飲んでいると、息を呑むほどの美貌の双子が入ってきた。
双子の名前は島本鈴江と島本香奈江。
彼女たちは「健二は香奈江と婚約している」と主張し、沙代子に罵詈雑言を浴びせた。
その日から、紗代子に対して鈴江と香奈江による壮絶な嫌がらせが始まった。

紗代子の死と島本家への呪い

鈴江と香奈江からのあまりの執拗な嫌がらせに、紗代子は精神的におかしくなり、ついに自ら命を断ってしまう。
しかし、紗代子は死ぬ前に鈴江と香奈江に対する呪いの儀式を繰り返していた。
紗代子の死後、鈴江と香奈江だけではなく島本家でも異変が起こり始める。

異変が起きた島本家は、代々因縁のある家系で、母親と双子たちは蟲(こ)という呪いの儀式に手を染めていた。
島本家から助けを求められ、伊東は琉球金剛流の退魔師として事態を解決しようとするが…。

なまなりさん 感想

読むと疲れる本です。
鈴江と香奈江側からの悪意と、それを理不尽に向けられた紗代子の強い怨念。

プロローグの伊東氏の転落の運命からもわかるように、彼は「なまなりさん」の呪いを解くことはできません。
何も解決しない火曜サスペンス劇場や土曜ワイド劇場を見ている気分になります。

「なまなりさん」で書かれていることは本当か?

「なまなりさん」を読んでいて、思わず「ホントかよ!?」と思ってしまうような箇所がたくさんあります。

まるで叶姉妹のような出で立ちの鈴江と香奈江。
ドラマやマンガでしか見たことのないレベルの陰湿な嫌がらせ。
紗代子の壮絶な最期と呪いの証拠品。
島本家で起きるホラー映画のような怪奇現象の数々。
全体的にどこか大げさで、ちょっと脚色が入っているのでは?と思う箇所が多くあります。

私は中山市朗氏がこの話を脚色したとは思えません。
15年近く生で中山市朗氏を見ていますが、氏は怪談に対して真摯な姿勢を持っていて、聞いた話を盛ったりするような人ではありません。

脚色をしたとすれば、当事者の伊東氏だと思いますが、氏はその後行方不明になっており、真相は闇の中です。

新耳袋の方針は正しかった

「新耳袋」では呪い・祟り・因縁に関する話を収録しない方針ですが、本当に正解だったと思います。
収録しないおかげで、上品でさらっとした誰でも気軽に読める怪談本になっています。

「なまなりさん」の当事者の方々には失礼ですが、呪いや因縁にまつわる話は、性質上どうしても下品・下世話な方向に行ってしまいがちです。
呪い・因縁を収録しないと決めた、木原・中山氏のセンスはさすがだと思います。

能面でなまなりさんを知る

qqq能面でなまなりさんの怨念の強さを見てみたいと思います。
怨霊系の面は、生成 → 中成(般若) → 本成(真蛇)と怨念の強さの順にレベルアップしていきます。

「なまなりさん」レベルでも一家全滅、関わった人が行方不明になるほどのパワーを持っているのに、本成まで行くと一体どうなってしまうのでしょうか!?

レベル1:生成(なまなり)

女性から般若へと変貌する前の姿。
嫉妬・怨みを持った、人の心を捨てきれない中途半端な鬼女。
顔は人型で耳がなく、角は短くて目は三白眼。
般若よりも髪も眉も女性らしいが、 頬にまで乱れた髪が激しい怨念を表現している。

怨念の表現が一番低いとされていますが、現実的な表情なので、生成が一番恐ろしく見えます。
こんな表情をしたり・されたりしないよう生きたいものです。

レベル2:中成・般若(ちゅうなり・はんにゃ)

生成よりもさらに強い、女性の嫉妬の悲しみと怒りを表した面。
女性の内なる怨念や情念、嫉妬、怒り、悲しみを凝集して表現している。

一般的によく知られている面。高橋英樹演じる桃太郎侍が登場のときに被る。
「ひと~つ、人の世生き血を啜り、ふた~つ、不埒な悪行三昧、みっつ、醜い浮世の鬼を退治てくれよう桃太郎!」

レベル3:本成・真蛇(ほんなり・しんじゃ)

嫉妬のあまり、耳は取れ、口は耳まで裂け、舌が覗き、牙も長く、髪もほとんどなくなる。
般若の嫉妬の表現をさらに激しくし、動物としての蛇に成りきった面。

「頭から喰ってやろうか!?」とでも言いそうな顔。
ここまで人間離れしてしまうとモンスター寄りになってしまって逆に怖くない、かもしれない。

まとめ

現代社会で普通に生きている人にとって、「呪ってやる」とか「呪われているのかも?」と思うことはほとんどないと思います。
「呪い」という言葉は、ドラマチックで面白い響きがあるように聞こえるかもしれませんが、それは外側から眺めている部外者だからそう思えるだけです。
「なまなりさん」を読んだら、絶対にそんなことは思えなくなります。
そういう意味でも、ためになる本だと言えます。

この本を読んで言えることは、呪いや怨念と無関係に生きたいなら「悪いことをしたら誠心誠意謝る」「人を恨まない」「人には感謝する」という、明るい前向きな心を忘れないようにすることです。


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